おすすめの一冊

2016.03.20
大いなる暗愚 管見妄語

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著名な数学者藤原正彦(御茶ノ水女子大学名誉教授)が新潮社写真のコラムに連載したものをまとめた書籍である。氏の厳父は作家の新田次郎、母は「流れる星は生きている」を著した藤原てい。文筆能力に優れた一家である。「大いなる暗愚」は、現代社会の数々の問題に歯に衣着せぬ評論がなされているが、著者独特のユーモアとウイットでオブラートに包まれており、愉快に読み進めることができる1冊である。著者は数学者であるが大変な読書家で、歴史の造形も深い。本書の中にはその著者の英知と深い教養が随所に垣間見られる。私が心に残ったのは「卑怯なことはしてはいけない」、「日本人としての矜持の大切さ」、そして著者の専攻した「数学という学問の厳しさ」である。世紀の難問と言われた数学問題を何年もかけて証明した天才数学者たちは、極度の集中から、その後全くの廃人になってしまったことなどが簡潔明瞭にしかも生々しく伝わってくる。どのような分野であれ、学問を究めることは命がけともいうべき厳しいことなのだ。著者は専門の数学だけでなく、前述のように深くかつ幅広い教養を身に着けて、かつ中庸を得た愛国者である。私の理想とする科学者像でもある。